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Electric guitars made by Okhoskt craftsmen are lined up in the factory showroom. (© Sankei)
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北海道・西興部村(にしおこっぺむら)。道東に位置し、9割は森林が占める。かつては林業が盛んだったが、今は酪農が中心の村だ。ただ、ここには、どこにもない特長がある。道内外からギター好きが集まってくるのだ。
理由は、村が歩んだ歴史にある。かつて、ここには豊かな森から切り出された木を加工する木工所があった。さまざまな製品の一つとして、エレキギター用の原板もあった。ところが、昭和62年に木材不況で倒産した。
従業員らの雇用対策や技術継承の目的で村などが公社を設立。現在の第三セクター「オホーツク楽器工業」として再興する。ギターの製造は生き残った。乾燥した気候や木工技術、塗装の丁寧さが評価され、今や年間約2万本のギターのボディーを生産するまでに成長した。
そして、今、この工場で働く40人の職人の大半はギターが好きで村の外から集まった。平均年齢は33歳だという。工場を訪ねると、乾燥した空気のなかで木材を削る音が響く。工程のほとんどは手作業で1本のエレキギターの原板ができるまで2カ月かかるという。工場長の向井地(むかいち)紀幸さん(44)は「職人が真面目に作るメード・イン・ジャパンのギターボディーは、音の精度を安定させる。塗装技術が高いのでスタイリッシュに仕上がり、海外で人気ですよ」と話してくれた。
ボディーの主な材料は軟らかく加工しやすい広葉樹のシナノキ。かつては村内に多く自生していたが、現在はほとんどなく、今は輸入などに頼っている。
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そこで昨年から、自給自足を目指してシナノキの植樹を始めた。原材料として使えるまでに成長するには80年以上かかる。ただ、100年後には、ギターを奏でる森が出来上がるはずだ。すべての従業員らが参加し、広がる青空のもとで苗木を植えた。
西興部の大地に、将来、ギターの音色を奏でるシナノキが1000本以上植えられた。小さな村は大きな夢を抱え、歴史を歩んでいく。
筆者:恵守乾(産経新聞写真報道局)